私の両親は都内の下町で小さな文具屋を営んでおりました。しかし、父が20年ほど前に他界した後、母は店をたたみ、土地を売り、近くのマンションでひとり暮らしをしておりました。
当時母はまだ70代でしたので、比較的元気で、友人と一緒に温泉旅行にでかけたり、映画や歌舞伎を観にいったりと、きままな毎日を過ごしておりました。
それでも私たち兄弟は母のことが心配でしたので、しばしば母の様子を見に、マンションに泊りがけで遊びに行っておりました。
母の様子がなんだかおかしいと気づいたのは母が80歳を越えてからです。とたんに母のもの忘れがひどくなってきたのです。最初のうちは、単なる老化現象によるもの忘れの一種だとしか思っていなかったのですが、しだいにその度合いが大きくなってきました。
その日が何日なのか、何曜日なのかというのをなんど説明しても覚えていなかったり、会話をしていてもちぐはぐであったり、あいまいであることが多くなってきたのです。それも、しだいに症状は悪化しているように、日に日にそのもの忘れが激しくなってくるのがわかりました。
そして、私たちは兄弟で相談をして、母を病院に連れて行ったのです。そこで初めて母が認知症であることを知りました。
母は足腰は丈夫でしたが、認知症という診断を受けてからは1人で生活させることができず、結局私が母の介護を引き受けることになったのです。